大阪高等裁判所 平成4年(行コ)49号 判決
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
二1 控訴人らは、土地区画整理法の事業計画の決定について、四一年最高裁判決後の昭和四三年に、旧都市計画法(大正八年四月五日法律第三六号)が廃止されて現行都市計画法(昭和四三年六月一五日法律第一〇〇号)が制定され、それに伴って、土地区画整理法等関係法令が改正された現在では、土地区画整理法の事業計画について、右判決が指摘する「青写真」としての性格は払拭され、特定個人に対する具体的処分としての性格が著しく強まったから、本件事業計画の決定については、処分性がある旨縷々主張する。
しかし、現行都市計画の制定及びそれに伴う土地区画整理法等関係法令の改廃によっても、土地区画整理事業の事業計画の決定は、その施行地区、設計の概要(施行地区内の土地の現況、事業施行前後における宅地合計面積の比率(いわゆる減歩率)、保留地の予定地積、公共施設の整備改善の方針等)、事業施行期間及び資金計画等、当該土地区画整理事業の基礎的事項(土地区画整理法五四条、六条、同法施行規則六条)を一般的・抽象的に決定するものであって、特定個人に向けられた具体的な処分ではなく、いわば当該土地区画整理事業の青写真にすぎない一般的・抽象的な単なる計画にとどまるものであるという点では、変わりはないというべきである。
2 控訴人らは、都市計画法施行法(昭和四三年六月一五日法律第一〇一号)による改正前の土地区画整理法(以下、右改正前の同法を「改正前の土地区画整理法」といい、改正後の同法を「改正後の土地区画整理法」という)においては、土地区画整理事業の事業計画で定められる事項であった「公共施設の配置及び宅地の整備に関する事項」が、現行都市計画法によって、都市計画において定めるものとされ(同法一二条三項)、また、改正後の土地区画整理法の事業計画において、改正前の土地区画整理法にはなかった「事業施行期間」を定めることとされた(改正後の同法五四条、六条一項)など、事業計画の内容が変わったこと、改正後の土地区画整理法では、同法五五条二項但書きで、意見書の対象事項から都市計画において定められる事項が除外されたことにより、事業計画決定の段階で利害関係者が意見書を提出できる事項が限定されたこと、或は、関係図書の縦覧制度が設けられたことなどから、改正後の土地区画整理法の事業計画は、四一年最高裁判決のいう「青写真」としての性格が払拭され、特定個人に向けられた具体的処分としての性格が著しく強まった旨主張するけれども、右のような事業計画の内容、意見書が提出できる事項の範囲、或は、関係図書縦覧の制度等についての土地区画整理法等関係法令の改正によって、事業計画の前記のような性格が変わるものとはいえず、控訴人らの右主張は、独自の見解であって、採用することはできない。
なお、控訴人らは、改正後の土地区画整理法における都道府県又は市町村が施行する土地区画整理事業の事業計画に対して、利害関係者が意見書を提出できる事項から、都市計画において定められた事項が除外されたことにより、四一年最高裁判決当時は、事業計画の決定の段階でも、土地区画整理事業の施行区域の指定について住民の側が争うことができたのに、右改正後は土地区画整理事業の区域の指定は、事業計画の段階では、利害関係者の意見によって変更される可能性はなくなったから、現在の土地区画整理事業の事業計画の決定は、四一年最高裁判決の指摘する「青写真」としての性格を払拭するに至ったと主張するが、改正後の土地区画整理法五五条二項但書きで、意見書を提出できる事項から都市計画において定められた事項が除外されたのは、都市計画法一七条で、都市計画において定められる事項については、都市計画の決定の段階で、住民及び利害関係人に意見書提出の機会が与えられているため、同じ事項について再度意見書提出の機会を与える必要はないからであって、それによって、前記のような事業計画の性格が変わるものとはいえない。
3 控訴人らは、仮換地指定処分など具体的な処分がなされてからでは、それまでに事実上事業が進行、完了し、仮にそれらの具体的な処分の違法が認められても、行政事件訴訟法三一条の事情判決で取消請求が棄却されるなど、権利救済の途が閉ざされることになり、特に、改正後の土地区画整理法では、前記のように、事業計画において事業施行期間が定められることになったため、仮換他指定処分など具体的な処分がなされた段階では、時間的に遅きに失し、事実上事業計画の違法性を争う余地がなくなるとも主張する。
しかし、事業計画が決定されると、法定の除外事由のない限り、それがそのまま実施され、事実上、事業が進行完了することがあり得るとしても、仮換地指定処分など具体的な処分に対する抗告訴訟等により、具体的な権利侵害に対する救済の目的が達せられないとはいえず、また、既述のように、事業計画自体が、特定個人に向けられた具体的な処分としての性質を有しない以上、これを抗告控訴の対象とすることはできないものというほかはない。
4 控訴人らは、行政不服審査法の制定に伴い、土地区画整理法五五条五項として、「前項の規定による意見書の内容の審査については、行政不服審査法中処分についての異議申立ての審理に関する規定を準用する。」との規定が新設されたのは、土地改良法が、農林水産大臣又は都道府県知事が事業施行者である場合の事業計画の決定について、行政不服審査法による異議申立てを認めているのと同視すべきものであって、土地区画整理事業の事業計画についても、その処分性を肯定する根拠となるものであると主張するが、右土地区画整理法五五条五項は、同条四項により、都市計画地方審議会が、同条二項によって利害関係者が提出した意見書の内容の審査をするについて、行政不服審査法中処分についての異議申立ての審理に関する規定を準用することを規定したものであり、単に、右意見書の内容の審査方法が、同法四八条、二四条ないし三二条等の規定に準拠して行われることを意味するに過ぎず、土地改良法八七条六項、七項、一〇項が、土地改良事業の事業計画の決定につき、これを行政処分として、行政不服審査法による異議申立ての対象となることを前提としているのとは、規定の趣旨が異なるものというべきである。したがって、土地区画整理法五五条五項の規定が、土地区画整理事業の事業計画の処分性を肯定する根拠となるものとはいえないから、控訴人らの右主張は理由がない。
5 控訴人らは、本件事業計画には、減歩率についての手続上及び内容上の違法があるところ、右違法は、事業計画の決定の段階で争わなければ無意味になるから、事業計画について、抗告訴訟の対象としての処分性を認めるべきであると主張するが、仮に本件事業計画に控訴人ら主張のような違法があるとしても、既述のように、事業計画が、特定個人に向けられた具体的な処分ではなく、一般的・抽象的な単なる計画にすぎないものである以上、これを抗告の対象となる行政処分とする余地はなく、事業計画の違法或は不当については、利害関係者が、土地区画整理法五五条二項の意見書を提出することによって、その是正を図るべきものである。
したがって、控訴人らの右主張は理由がない。
6 控訴人らは、六〇年最高裁判決が土地区画整理法上の土地区画整理組合の設立認可につき、六一年最高裁判決が土地改良法上の市町村営土地改良事業の施行の認可につき、それぞれ抗告訴訟の対象となる行政処分であることを認めたことによって、四一年最高裁判決は事実上変更されたか、或は、その判断は、現在においては維持されるべきではないと主張する。
しかし、原判決一二頁四行目から一三頁六行目までに説示されているとおり、土地区画整理組合の設立認可は、単に設立認可申請にかかる組合の事業計画を確定させるだけのものではなく、その組合の事業施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者をすべて強制的にその組合員とする公法上の法人である土地区画整理組合を成立せしめ、これに土地区画整理事業を施行する権限を付与する効力を有するもので、それによって、組合員となる者に対し、直接、組合員としての具体的な権利義務を生ぜしめることになる点で、単に、土地区画整理事業の基礎的事項を一般的・抽象的に決定するに止まり、特定の個人につき直接権利義務の変動を生ぜしめることのない土地区画整理事業の事業計画の決定とは明らかに性質の異なるものである。
また、土地改良法上の市町村営土地改良事業の施行の認可については、これに対応する国営又は都道府県営の土地改良事業の事業計画の決定について、同法八七条六項、七項、一〇項が、右事業計画の決定が行政不服審査法による異議申立ての対象となることを当然の前提とし、右事業計画の決定が、行政処分として抗告訴訟の対象となるべきものであることを明文をもって定めている点で、このような規定を欠く土地区画整理事業の事業計画の決定と同一に論ずることはできない。一連の手続を経て行われる行政作用について、どの段階で、これに対する訴えの提起を認めるべきかは、立法政策に属する問題である。
したがって、六〇年最高裁判決及び六一年最高裁判決は、いずれも、土地区画整理事業の事業計画の決定に関する本件とは事案を異にし、本件に適切ではなく、また、右各最高裁判決によって、四一年最高裁判決の判例が変更され、或は、その判断が、現在においては維持されなくなったものとはいえない。
控訴人らの右主張は理由がない。
第四 結語
以上により、控訴人らの本件訴えを不適法として却下した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 志水義文 裁判官 高橋史郎 三浦宏一)
別紙など
《参考》京都地裁平成五年一〇月五日判決(平成三年(行ウ)第一四号)
【事実及び理由】
五 争点に対する判断
1 土地区画整理事業計画自体は、特定個人に向けられた具体的な処分とは異なり、それ自体ではその遂行によって利害関係者の権利にどのような変動を及ぼすかが必ずしも具体的に確定されているわけではなく、いわば当該土地区画整理事業の青写真たる性質を有するにすぎない。
そして、事業計画決定が公告されると、爾後、施行地区内において宅地、建物等を所有する者は、土地の形質の変更、建物等の新築、改築、増築等につき一定の制限を受け(土地区画整理法七六条一項)、また、施行地区内の宅地の所有権以外の権利で登記のないものを有し、または有することになった者も、所定の権利申告をしなければ不利益な取り扱いを受ける(同法八五条)ことになっている。しかし、これらは、当該事業計画の円滑な遂行に対する障害を除去するための必要に基づき、法律が特に付与した公告にともなう付随的な効果にとどまるものであって、事業計画の決定ないし公告そのものの効果として発生する権利制限とはいえない。
したがって、事業計画は、それが公告された段階においても、特定個人に向けられた具体的処分ではなく、宅地・建物の所有者または賃借人等の有する権利に対し、具体的な変動を与える行政処分でない。このような中間段階の行政行為である事業計画は、土地区画整理法上、これを抗告訴訟の対象とするとの立法政策を採っていることが明らかな規定がないから、取消訴訟の対象とはなしえない(最判昭四一・二・二三民集二〇巻二号二七一頁参照)。
2 原告らは、土地区画整理法六条、五五条二項に照らせば、事業計画決定を単なる青写真と見ることができない旨主張する。しかし、改正された現行右各条項を含めて考えても、事業計画自体ではその遂行によって利害関係者の権利にどのような変動を及ぼすかが、必ずしも具体的に確定されているものとはいえない。
3 なお、最高裁判例は(最判昭六〇・一二・一七民集三九巻八号一八二一頁)、土地区画整理組合の設立認可について処分性を認めている。しかしながら、土地区画整理組合の設立認可は、単に、組合の事業計画確定の効果のほか、事業施行地区内の宅地所有者、借地権者をすべて強制的に組合員とする公法人を設立させるものである。このように右所有者等の個人の具体的な権利義務に変動を生じさせる点で、これのない本件土地区画事業計画決定と同視することができない。
また、他の最高裁判例は(最判昭六一・二・一三民集四〇巻一号一頁)、土地改良法上の市町村営土地改良事業の施行の認可について、処分性を認めている。しかしながら、土地改良法には、市町村営土地改良事業の施行の認可に対応する国営または都道府県営の土地改良事業における事業計画の決定について不服申立を認める規定があり(同法八七条六項、七項、一〇項)、これを抗告訴訟の対象とするとの立法政策が採られていることが明らかである。このような規定を欠く本件土地区画整理法の場合と同一に論ずることはできない。
4 したがって、本件事業計画決定は、抗告訴訟の対象としての処分にあたらない。よって、その余の判断をするまでもなく、本件訴えは不適法である。
(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 中村隆次 佐藤洋幸)